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■ 長男との関わりの修復によって改善したパーキンソン病の1例

Uクリニック Y.Y氏

【はじめに】 一般にパーキンソン病は最近の調査によると、人口10万人当たり約120 人の有病率で全国では約12 万人いると言われている。
その臨床症状は、振戦、固縮、無動、進行期の姿勢反射障害の4 主徴であるが、それ以外にも仮面様顔貌、特有の前屈姿勢、小刻み歩行、すくみ足などの特徴的なパーキンソン病の症状がある。
この疾患は黒質のドパミン作動性神経細胞が変性脱落してゆく「選択的黒質変性疾患」である。その治療はもっぱら投薬、リハビリを中心に行われ、難治性の疾患に対しては脳深部刺激療法など手術治療が行われることもある。
しかし、本疾患の発症、病状の進行、そして、治療に対しての患者の情動やストレスについて焦点を当てた報告は少ない。
今回、パーキンソン病の患者が、長年の長男とのねじれた関係を修復することによって症状の軽快が見られた症例を経験した。本疾患における患者の心、情動の変革による新たな治療の可能性が考えられた症例と考えられたので報告する。

【症例】 症例は85 歳の女性で、69歳頃より左上肢の振戦が出現し、さらに動作緩慢とともに、歩行障害が認められるようになり、前医でパーキンソン病と診断され、投薬加療を受
けた。当院には発症より9年目の78歳時に来院した。
初診時の神経学的所見では、声量が少なく、表情の乏しさが見られた。安静時振戦は左側を優位に両上肢に見られ、ほとんど常に出現していた。また下顎や体幹の振戦も見られた。さらには左上肢に優位な中等度の固縮があり、前傾姿勢を示し、動作も緩慢な状態でありパーキンソン病の重症度評価スケールYahrの修正重症度分類(下表)では2.5であった。

 Yahr 分類 (パーキンソン病 modified Yahr分類)
Stage 1
症状が片方の手足のみの状態で日常生活への影響はまだ極めて軽微。
Stage 1.5
上記に加え、体幹の振るえが加わる。
Stage 2
両側性の障害があるが, 姿勢保持の障害はない。日常生活、職業は多少の障害はあるが行い得る。
Stage 3
上記より症状は強いが姿勢反射は保たれている。
Stage 4
症状が両方の手足に見られ、典型的な前屈姿勢、小刻み歩行が見られる。日常生活は自立しているが、職種の変更などかなりの制約を受けている。
Stage 5
両方の手足に強い症状があり、歩行は自力では不可能であるが、支えてもらえば可能である。日常生活でもかなりの介助を要する。
Stage 6
ベッドまたは車椅子の生活で、ほとんど寝たきり。全面的介助を要する。
前医での抗パーキンソン病薬はメネシット1.5T、アーテン1.5T であったが、その後も症状の増悪があり、当院では平成13 年初めよりメネシット3T に増量を継続しながら、外来で経過を見ていた。さらに平成17年にはビ・シフロールを追加した。また、週に3 回リハビリを行っていた。

【経過】 当院での経過であるが自他覚症状は一進一退の状態であり、めまいやふらつきなどの症状をよく訴えた。振戦、固縮、動作緩慢などは多少の悪化傾向にあった。家庭ではストレスが強く、息子と話をすると怒られるとよく訴えた。
  そこで、パーキンソン病の症状と患者がよく訴えるその家庭の状況に何らかの因果関係がある可能性を感じ、家庭の状況がどんな状況であるかを傾聴することとした。
  患者は、もと中学校の熱心な体育の教師であった。中学校の校長だった夫とはパーキンソン病を発症した頃はすでに死別していた。長男は離婚しており、子どもを連れて実家に戻ったが、その孫はすでに独立し、現在、その長男との二人暮らしである。しかし長男との会話がほとんどなく、話をすれば長男に怒られるという状況で、絆が切れた状態であることに患者は大きなストレスを感じていることが察せられた。
  さらに、このパーキンソン病が発症した頃の背景では、発症時期に一致して長男の離婚問題が発生していることがわかった。患者は長男の離婚に対して強い抵抗があり、子どもの養育権問題などで長男と患者との意見が対立して、二人の子どもを長男に引き取らせ、その後、患者と長男の絆がねじれていった。
  この出来事以降、家庭では長男が患者のことを無視して、言うことは少しも聞かず、彼女が話かけると、喧嘩腰で言い返してくるというような関わりから、大きなストレスになっていったことも見えてきた。この頃に一致して左上肢の振戦が始まった。
  対話を続けているうちに、患者は長男に対し、優位に立った関わりをしていることがはっきりしてきた。その背景を考えてみると、患者が昔の教師として「先生は子どもたちには上から関わるもの」「親はこどもに命令し、子どもはそれに従って当然である」「親の側から子どもに挨拶するのは親の沽券に関わる」という考え方をしていることが対話の中で明らかになった。
  この長男との関わりにおけるストレスが病気を発症、悪化させている可能性が高いことを感じられ、そのために診察中に心と身体のつながりについて説明を行い、今回の病発症の原因の可能性の一つとして、切れている長男との絆を結び直すための提案をした。
  患者には「息子さんは『親のあなたの言うことに従って当然』というその接し方に彼は反発している可能性があると思いますが、いかがですか」と、関わり方を見直してみることを具体的に提案した。まずは長男の言うことに耳を傾けてみる、そして自分からの朝の挨拶をすることを提案したところ、患者さんは当初は乗り気ではなかったが、しかし、今の状況を何とかしたいという思いが強かった彼女は、少しずつ自分から長男に話をするなど、関わりを変えてゆこうとし始めた。
  まず朝の挨拶をする。長男が出勤するときは「行ってらっしゃい」と言う。長男が帰ってきたときは軽食を用意して出す、などを始めた。また心を見つめてゆくために、同時に高橋佳子氏の著作である『新・祈りのみち』(三宝出版)とカレンダーをお渡しし、しだいに高橋氏の説かれる「相手は変えられないが、自分は変わることはできる」ということに共感されるようになった。そしてカレンダーの詩を暗記されて外来に来られるようになった。
  これらを継続しているうちに、長男との関わりの変化が現れ始めた。まず長男が患者に話しかけてくるようになり、そして今年は、彼から初めて母の日のプレゼントをもらったことを患者は嬉しそうに報告してくれた。また体調を崩したときに長男が病院まで送ってくれるようになった。さらには患者の趣味である花の絵の画集を作るのを手伝ってくれた……など、家に流れていた冷たい空気がなくなってゆき、長男が患者に対して心を開いていくようになった。
  このように長男との関わりが改善してくることに呼応するように、症状も軽快していった。この間、投与していた抗パーキンソン病薬の増加はないことから、Aさんの心の変化がこの症状の改善につながったものと思われた。
Yahrの修正重症度分類では2.5 から1.5 に改善した。

 
【結果】 これまでパーキンソン病の治療は早期、進行期に分けることができ、もっぱら薬物治療を中心に、進行期には手術療法などが行われ、またパーキンソン病に伴う運動症状以外の症状に対する治療が最近注目されている。
  しかしその発症、病状の進行、そして治療に対して患者の情動やストレスが本疾患に影響をどう及ぼすかという心理的アプローチについて焦点を当てた報告はほとんどない。
  今回、この患者の改善は3 つの過程に分けて考えることができると思われる。
  まず第1 に、患者は診察のときに家庭内のストレスを訴えており、ストレスがパーキンソン病の発症に関与していることが考えられた。TL人間学では病気が患者の情動と深く結びついていることをその病気観として見るが、長男との関わりのねじれとしてのストレスが、病気を発症させたことの可能性を考え、患者の長男への関わりの変革の提案につながっていった。
  第2 に、患者の情動と病気が深い関わりがあることを演者は確信を持って患者に話し、それによって患者の行動、情動の変革につながっていったことである。この間には高橋佳子氏が提唱されるTL 人間学を学ばれる中、患者の気持ちに大きな変化があったことと思われる。診察時に高橋佳子氏の詩の書いてあるカレンダーを暗記してこられたことからも大きな信頼が高橋氏に寄せられていることが察せられた。
  第3 に、その患者の変化によって誕生日のプレゼントなど、長男自身の患者への関わり方が変わり、それによって患者に安らぎがもたらされ、そして症状の改善につながったものと思われる。
  患者の情動の変革というこの過程は、これまでパーキンソン病の治療としてほとんど報告はない。薬物療法、手術療法の研究が盛んな現在においてこの情動の変革がパーキンソン病治療への新たなアプローチとして可能性があることも感じられた。
  これらは、TL人間学を学んだことによって得た患者の心と病気はつながっているという新たな医療観によるものである。

 
【結語】 長男との人間関係の葛藤に関連して発症したと思われるパーキンソン病が、その修復によって改善した症例を経験した。これまでもっぱら薬物、手術療法によって行われてきたパーキンソン病治療にTL 人間学による対話で心理的なアプローチを行うことの可能性を感じた。
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