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■ 対話診療によって眼科不定愁訴のみならず全身症状も軽快した1症例

H眼科 K.H氏

【はじめに】 様々な心理社会的ストレスにより引き起こされた心身症の一つとして、眼心身症が報告されている。しかしその訴えは、大部分は機能的異常で様々な症状が重なるために、眼科においては、眼科不定愁訴や心療内科の対象疾患(ヒステリー等)として、根本的な原因が探られることは少ない。今回、羞明、眼部の異物感と眼脂を主訴に受診された患者に、TL人間学に基づく対話診療を行ったところ、患者自身の内的変化とともに症状が好転した症例を経験したので報告する。

【症例】 患者は70歳女性のAさん。4年前から手足の企図振戦、言語障害がみられ、脳神経外科、心療内科など受診したが、病状に変化はなかった。2005年4月、当院に、羞明、両眼の異物感、眼脂を主訴として受診した。検査を施行したが、両眼の角結膜に器質的な所見は無く、簡便な神経学的検査でも異常を認めなかったため、涙液補助薬点眼を処方した。診察中、患者は非常に緊張しており、病状の背景に心因性要素が大きいと判断し、対話診療の適応と考えた。「発症原因に思い当たる点はありませんか?」との問いかけに、Aさんは家庭の崩壊と経済的困窮に至った過程、及びご主人と不倫相手に対する恨みの気持ち、そして自己憐憫の想いを訴えた。

【6月、2回目の診察時】
 Aさんは話ができたことで少し落ち着いたとのことであったが、依然容貌は暗く症状は改善していなかった。そこで、ご自身の気持ちにより焦点を当ててゆくために、『祈りのみち』(高橋佳子著 三宝出版)の中の『自分をあわれむとき』と『憎しみ、恨みにとらわれるとき』の箇所を示し、内を見つめることを促した。

【3回目の診察時】
 Aさんは、「私の中に、あの想いが確かにあったんです」と気づいたことを語った。「あの文章を毎日読んでいます。気分が落ち着いてきました」と言われた顔が明るく輝いていたのが印象的であった。少し振戦が改善しており、診察室への足取りも軽くなっていた。

【4回目の診察時】 「今まで、元の主人と相手の女性に対して恨みの気持ちに執われて、離婚にも応じなかったし、ずっと二人の結婚を邪魔してきた。しかし、この気持ちから離れることができた」「離婚に応じ、慰謝料も請求しない。長い間、暗い気持ちに呑まれてきたが、今はそこから脱して、こんなに晴れやかな気持ちになれた」と語った。現在は、手足の企図振戦、言語障害は改善し、眼科的症状も消失している。

【考察・結論】 他覚的所見を伴わない眼部の異物感や眼脂は、一般的には眼科不定愁訴として扱われやすい。このような症例では、精神安定剤や自律神経薬などの薬物療法の対象とされ、重症例では精神神経科や心療内科へ紹介することがほとんどである。筆者は、TL人間学による対話診療を行い、患者が現実を受けとめ、気持ちの転換を果たし、症状が改善した症例を経験した。眼科における対話診療の可能性を感じた。今後、症例を積み重ねてゆきたい。

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